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2015年2月 6日 (金)

妻の匂い

高校3年生の孫娘が「じいちゃん、なにかアルバイトない?」と聞いてきた。高校でのなすべきことが全て終わり、その主なものはテニスなのだが、遠く本州の最東端の国から正月休みで帰省した折の言葉である。

今度は東京の大学でテニスをやることになり、そしてもう二月に入った現在では大学の練習に参加するので家にはいなくなってしまったのだが、正月の間は遊びにファッションにお金が欲しかったのだった。

甘えられることの少なくなった私は彼女の要求に喜んで応えることにした。それは7年前に亡くなった妻のタンスの整理をしてもらうことだった。納戸の奥深くそのタンスは妻が逝ったときのまま眠っていた。

テニスで鍛えた体は私の心配をよそに開けづらくなった引出しをいとも簡単に取り出し、妻が残した帯、晴れ着、礼服などを次々と私の前に積み上げてくれた。その多くは妻が何故、いつこんなものを用意したのか全く見当もつかないものだったが、中には若いころ正月など落ち着いた日に着ていた見慣れた着物もあった。

孫娘はお勝手から大きなゴミ袋を持ってきて、紐や襦袢などもうどう処理しよもないものを次々とその中に詰め込んでいった。そして、タンスは空っぽになったのだった。
いつか私の子供たちが集まった時にでも整理してもらおうと長い間宿題にしたままだった私の課題はこうしていとも簡単に済んだ。

納戸は寝室の奥にある。沢山の着物を寝室においたままにするわけにはいかない。とりあえず書斎の隅に運んでもらってアルバイト料を払うことにした。その報酬は5000円。これなら少女の願いに叶うだろう。

さて、その後の話。
妻の遺産をいつまでも眺めて、その匂いに浸っているわけにも行かない。あの勢力的に生きた彼女の面影をこの着物類に偲んで日を送ることはできないのだ。
処分先を調べると石川県にY徳という業者があることがわかった。梱包用の箱、テープなどを送ってくれ、送料も無料だという。見積ってその金額をこちらの指定した金融機関に振り込みますとのことだ。

これなら誰の手を煩わすことなくすべてが終わる。そう判断し、先週末に送ったところ、「生絹類が少なく値をつけられませんでした」とのメールが帰ってきた。そして、こちらで送料を負担すれば全て返品するとのこと。
私は「どうぞ貴社で処分をお願い申します」と返答した。

こうして私の下からまた一つ妻の匂いが消えていった。

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コメント

なんとも言えない悲しさと寂しさ、そして気持ちの良い潔さが感じられます。
大好きな人の匂いと思い出は心の中でいつまでも生きていると思います。
すっきり片付いて奥さまも天国できっと喜んでいらっしゃると思いますよ。私にとって大事なものを今のうちに少しずつ処分しなければ、と思いました。

投稿: midori | 2015年2月11日 (水) 22時08分

midoriさん、コメントありがとうございました。心に寄りそって下さる方がいて、うれしいです。

大事なものを残して置くとこうして別れた人とも再び交流できますので、急いで処分なさらなくてもいいかもしれません。

北上教会の庭の樹々にも春の息吹がそろそろ感じられることでしょう。お元気でお過ごしください。

投稿: chacchan | 2015年2月12日 (木) 10時53分

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