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2013年7月29日 (月)

「そんな牧師、いないわよ」

牧師さんは風呂場に入ってなにやらやっていた。大きな物でも動かしているらしい。音でそれとわかる。
「ちょっと見てください。これでシャワーができませんか。」
断ったはずの入浴をまだ牧師はまだあきらめきれないらしい。家にいても入浴は3日に一度ぐらいしかしていない。衣服の着脱が苦労だし、移動も体に負担が増すからである。
覗いてみるとバスタブの脇に診察台のようなものが並んでいる。私が足を伸ばして座るには十分の広さがある。
「手伝いますからシャワーやってみてください。」汗かきの牧師は私にもなんとかして一日の疲れを癒して欲しかったのだろう。
私は応ずることにした。ベッドで裸になって台の脇まで車椅子で行き、手伝っていただいて台に乗り移る。衣服を剥いだ体は足を動かすにも掴むところがない。牧師は狭い空間を乗り越えて足の方に移動し体を乗せてくれた。
そして車椅子を外に出してシャワーノズルを手渡ししてくれた。
私は熱い湯を全身にくまなくかけてその快感を味わった。
そしてまた牧師を呼んだ。台に座っている体は右に大きく湾曲している。誰もこの姿は見たことがないはずだ。牧師はいつもの大きな声で「気持ちいいでしょう。」と言いながら他のことは何も言わず、私を車椅子に引きずってくれた。

この牧師さんに援助を受けて旅をするのは今年で3回めである。会議中は信仰のことが話題の中心であるにもかかわらず何も発言しない。自己紹介でも「介助者としてきました。」とだけ言う。
「そんな牧師、いないわよ。」これは会議の参加者が私にそっとつぶやいた一言である。
 
 

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コメント

なんてすばらしい牧師先生でしょうか。状況を想像するだけで感動して嬉しくて泣きたくなります。

投稿: midori | 2013年7月31日 (水) 20時51分

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