« 君と話してから寝よう | トップページ | 天に召されるときのために »

2009年10月11日 (日)

「奥離」という言葉

デイサービスではマシンを使った身体のトレーニングが終わるとベッドに横になってマッサージを受けたり、半身不随の後遺症の人などは低周波を受けたりする。
そのときベッドの割り振りをするのだが、先生の奥さんはいつも私に「Sさんは奥離にお願いします」と言う。一番奥のベッドという意味である。私はこの言葉をある種の郷愁に似た思いで聞きながら車椅子を走らせる。

私の生まれた家にも「奥離」があった。そこは掛け軸が下がり、文机や床の間がしつらえてあった。襖四枚には漢詩が行書体で書かれ、特別な部屋であることが子供にもわかった。だから大事な客人が来ればそこは接待をする部屋になった。農家だから養蚕をしたり、麦の収穫の時があってそのときは土間に面した部屋は飼育場や収納場所になっても奥離だけは畳が敷かれていたのだった。
現在の我が家はツーバイフォーの家で、価格を抑えるために飾り気を排した造りである。ここに来る前は公務員宿舎だったから、部屋は空間を粗末なベニヤで仕切った程度のものだった。そんな家に長い間住んできた者にとって「奥離」はなんと多くの思い出を秘めた部屋だったことだろう。
デイサービスで聞く「奥離」は単に奥まった場所という意味なのだが、きっと奥さんの生い立ちには私に似た何かがあるに違いない。

|

« 君と話してから寝よう | トップページ | 天に召されるときのために »

「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 君と話してから寝よう | トップページ | 天に召されるときのために »