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2008年7月15日 (火)

妻の召される時

前日も遅くまで付き添ったので疲れが蓄積していた。そこで息子たちの配慮で隣の空き部屋のベッドに横になることになった。夜の10時近くのことだ。開けたままの窓からかすかに風が入ってくる。

少し目を閉じて寝入った頃だろうか。最期かも知れないから来たほうがいいと看護師が言っていると誰かに呼ばれた気がする。

子どもたち4人と2人の孫がベッドを囲む。午前1045分には脈が132、酸素が67だったのに夕刻には血圧が74から46に下がり、脈は137、酸素は58、呼吸は23になった。酸素を取り込めない肺を心臓が懸命に働いて助けているようだった。

だが呼ばれて入った部屋のモニターは血圧46から28、酸素47を示し、一人がんばった心臓も69回しか脈を打てなくなっていた。

6時ごろからは呼んでも応えず、手を握っても応答しなくなっていた妻は素人目にもいよいよ終りの時を迎えていることがわかった。午前中、戦闘機のパイロットがつけるような酸素マスクの中で口を開き、胸を大きく波うたせて苦しみながら、私の呼びかけにわずかに頷いていた妻はもう何の痛みも苦しみもない状態に移されたようだ。
皆で見守る中、やがて呼吸が平坦になり、静かになった。続いて脈も数字が消え、波形は水平線のように長くなった。静寂の世界が誕生していた。

看護師が当直の医師を呼び、医師は妻がこの世の生を終えたことを私たちに伝えた。1025分であった。

部屋が一変した。「KZ子、ありがとうね。いいものをいっぱい造って、残してくれてありがとう。皆がここにいるよ。一緒に生きてくれて本当にありがとう。神様、今KZ子が御許に召されました。どうぞ両手でKZ子を抱きしめて受け入れてください。アーメン」

私は嗚咽の中でこう声に出した。

一きりして、臨終を告げた医師と看護師に「ありがとうございました。看護師さんの皆さんにも温かくお世話いただきありがとうございました」と礼を言った。

牧師はすぐに病院駆けつけてくださった。

子どもたちはそれぞれの車で来ていたので、車を持たない娘が妻に付き添うかたちで待ちわびた家に帰った。用意された蒲団に身をおいた妻の顔は安らかで美しかった。

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